中国製アクションRPG『黒神話:悟空』が爆発的な大ヒット、迫力満点のアクションシーン、どこまでも美しい世界に一見の価値あり

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『黒神話:悟空』は、中国のゲームメーカー「Game Science」によるアクションRPGである。本レビューは、事前提供を受けたPC版のver.1.0.4.14545に基づいた内容となる。

かの有名な中国古典小説『西遊記』を題材とする本作であるが、そのゲーム性を一言で表すとすれば、「弾き」のない『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』、あるいは武器が1種類しかない「DARK SOULS」、やれることの少ない『仁王2』といったネガティブな表現となってしまうだろうか。

戦闘と探索の両面で根本的な何かが抜け落ちているような印象があり、アクションRPGとしては味気なさを覚えてしまう。しかし、ボス戦についてはほかに類を見ないほどに数が多いにもかかわらず、そのいずれもが丁寧に作り込まれている。超一級品のグラフィックと独特なデザインセンスから思わず見惚れてしまう風景が満載のマップ、なぜか逐一挿入される超クオリティな2Dアニメーションなど、贅沢極まりないつくりである。見逃せない問題は多くあれども中国にしかつくれない大作であることは間違いない。

本作のプレイを始めて真っ先に目を奪われるのがそのグラフィックであろう。Unreal Engine 5 による緻密極まりない描写と、中国らしさが感じられる独特なセンスによってあらゆる瞬間が思わず見惚れるほど絵になるという、素晴らしいグラフィックである。ただ見た目が美しいだけでなく、孫悟空が封印される五行山、芭蕉扇がないと通行不能な火焔山など、有名な『西遊記』の世界が最新のグラフィックで描写されており、原典に詳しいプレイヤーであればそれだけで高揚してしまうことだろう。

メーカーによるレビューレギュレーションの都合上、森と砂漠しか画像を掲載できないのが残念だが、以下のギャラリーでその一部を紹介する。本作のロケーションは牢獄、雪山、火山などバラエティ豊かであるだけでなく、心奪われる風景やその場に見合った敵配置などから、魅力あふれるレベルデザインとなっている。

戦闘のバリエーション不足は深刻ながら、好機を見極めて一気呵成に攻め立てる感覚は爽快

実際のゲームの流れについて言及すると、少しの油断が死につながる高い難易度、チェックポイントで休息するごとに復活するザコ敵、厳しい回数制限のある体力回復手段など、さまざまな困難を乗り越えてチェックポイントを開放していき、最奥に待ち受ける大ボスを倒すことでストーリーが進行するという、すっかり見慣れたものとなっている。

以下のように大きすぎる相違点もあるが、やはり基本的なプレイ感覚は「DARK SOULS」などに近い。

  • 死亡時のペナルティがない
  • マルチプレイ要素が存在しない
  • キャラ強化要素の不足から探索があまりにも味気ない(後述)
  • ジャンプアクションの存在から移動にいくらか自由度がある
見えない壁に阻まれることが多いマップデザインや、基本的に出会うキャラはすべて敵であり、たまにサブイベントを備えた会話可能なNPCがいるという点も「DARK SOULS」を思わせる。
見えない壁に阻まれることが多いマップデザインや、基本的に出会うキャラはすべて敵であり、たまにサブイベントを備えた会話可能なNPCがいるという点も「DARK SOULS」を思わせる。

戦闘システムについても似通った部分が多く、スタミナゲージに注意を払いながら攻撃を繰り返し、敵の攻撃に合わせてローリングで回避するというなじみ深い戦闘である。しかしながら、武器の種類は「如意棒」のみであり、最初から存在する一連の攻撃モーションのみで最後まで戦い抜くことになる。そのうえ、「SEKIRO」の弾きと体幹、あるいは「DARK SOULS」のパリィと致命の一撃のような戦闘の根幹を支えるシステムは存在していない。ガードアクションもなく、その代わりにジャスト回避が重要視されているなどのちょっとした工夫はあるが、基本的にはひたすらに棒で叩くのみという割り切りすぎた仕様である。https://jp.ign.com/black-myth-wukong/76176/video/embed1種類しかないモーションセットであるが、動画のとおりトリッキーで扱いづらく、かなりの慣れが必要とされる。

自キャラの強化や状態異常の治療に用いる消費アイテムの概念もあるが、敵を直接攻撃するタイプの消費アイテムは存在せず、バフの効果もそこまで強力なものではなく、作成コストも重めであるため、今ひとつ影が薄い。
自キャラの強化や状態異常の治療に用いる消費アイテムもあるが、敵を直接攻撃するタイプのものは存在せず、バフの効果もそこまで強力なものではなく、作成コストも重めであるため、今ひとつ影が薄い。

シンプルすぎる戦闘にいくらか彩りを添えてくれそうで、そうとも言い切れない要素が「法術」である。本作には敵を一定時間硬直させる「定身術」、自らの身体を石に変えて敵の攻撃を弾く「金剛術」、複数体の分身を生み出して敵を袋叩きにする「分身術」などといった術がいくつか用意されている。

大型のボス敵だろうと敵が空中にいようとほとんどすべての敵を5秒ほど拘束できる定身術など、いずれの術も強力である。
大型のボス敵だろうと敵が空中にいようと、ほとんどすべての敵を5秒ほど拘束できる定身術など、いずれの術も強力である。

しかし、発動に必要となるいわゆるMPにあたるゲージ「法力」の消費量は多めに設定されており、しかもこの法力を拠点以外の場所で自発的に回復する手段はほぼ存在しない。さらには、だいたいどの術も長いクールダウンタイムが設定されていることから、発動のタイミングについてはかなり吟味する必要がある。また、用意された法術は5種類のみで、火の玉を放つなどといった直接敵を攻撃する法術は存在していないため、術のみで敵を倒すことはできず、やはり戦いの主役は如意棒である。

伸びることを活かした中距離攻撃が可能であるため、ある意味では如意棒による攻撃自体が術の一種であると言えるかもしれない。
伸びることを活かした中距離攻撃が可能であるため、ある意味では如意棒による攻撃自体が術の一種であると言えるかもしれない。

そうした法力を消費するタイプの術とは別枠として「借身術」という術がある。これは要するに『仁王2』の「妖怪技」そのものであり、特定の敵を倒すことで得られる「魂魄」を装備することで一時的に妖魔の姿を借りて、特殊な攻撃を繰り出すことができるというもの。この術を扱うには「真気」という攻撃をヒットさせるごとに溜まるゲージが必要となるのだが、その必要量は多めであり、強力な魂魄の場合はおおむね1回の戦闘で一度か二度までしか発動できない。また、一度に装備可能な魂魄はひとつのみであり、複数の魂魄を状況に応じて使い分けるといった扱い方ができないなど制限も多い。ただ、種類としては数えきれないほど用意されていることから、選択肢の少ない戦闘に彩りを与える要素であることは間違いない。https://jp.ign.com/black-myth-wukong/76179/video/embed金剛術、定身術、借身術を活用した戦闘の様子。借身術については姿を変えて特定の攻撃をしたあとはすぐ元に戻るという点も含めて妖怪技そっくりである。

もうひとつ妖魔の力を借りる術として「変化術」がある。発動することで攻撃パターンが専用のものへと切り替わる点やHPゲージが独立している点など、『仁王2』の「妖怪化」そのものだと言える。非常に強力ではあるのだが、こちらも長いクールダウンタイムが設定されており、ここぞという場面でのみ用いることとなる。やはりどこまでいっても戦闘の主役は如意棒である。https://jp.ign.com/black-myth-wukong/76178/video/embed変化術中は、攻撃するたびに変化時間が減少する点なども妖怪化によく似ている。

ここまで書いた限りでは弾きのない「SEKIRO」、あるいはビルドに幅のない「DARK SOULS」、やれることの少ない『仁王2』というべき戦闘であり、ネガティブな印象を受けてしまうだろう。では、本作の戦闘の独自性はどこにあるのかと言うと「棍勢」ゲージ管理と「重棍」攻撃の重要性が挙げられる。

「棍勢」とは主に通常攻撃を敵にヒットさせることで溜まるゲージのことで、これを消費すると「重棍」という大技を放つことができる。重棍は高威力なだけではなく、大型のボス敵まで含めた大半の敵をよろめかせる効果があるため、棍勢を維持しつつ敵の攻撃を見極めて適切に重棍を当てていけば、敵の攻撃をキャンセルしてこちらの攻撃機会を飛躍的に増やすことが可能となる。

右下の白く光る球が棍勢ゲージ。やけに見づらい位置にあるのが気になるが、常にこのゲージに注意しながら戦うことになる。
右下の白く光る球が棍勢ゲージ。やけに見づらい位置にあるのが気になるが、常にこのゲージに注意しながら戦うことになる。

全般的に敵の隙は少なめに設定されていることから、重棍をヒットさせて隙を生み出すことが本作の戦闘でもっとも重要な要素となる。これを起点とした爆発力はかなりのもので、重棍を当てて敵の隙を生み出したのちに、敵を硬直させる定身術を用いてさらに隙を延長、そのタイミングで分身術を用いて手数を増やすといったことができる。さらに敵をよろめかせる効果をもつ借身術や変化術までも総動員すれば、一度の攻撃機会をどこまでも延長し、敵のHPをゴッソリと持っていくことができる。https://jp.ign.com/black-myth-wukong/76177/video/embed各術の発動に必要なゲージもあっという間になくなってしまうため、あまり欲張ると即死する危険性があるなかで一度になるべく多くのダメージを与えないと以降は手詰まりという紙一重な戦いが常となる。

つまり、本作の戦闘は「隙をつくというよりも、隙を作り出す」、「少ないチャンスを最大限に活かす」といったコンセプトだと言える。思えば、各術の法力消費が激しいうえにクールダウンタイムが長いなど、自由に扱えないのもこのコンセプトゆえの調整なのだろう。そう考えるとよく練られているようにも思えるが、戦闘中の大半の時間は棒でペチペチと殴りつけているだけになりがちというのは、やはり難点である。

また、根本的な問題として各アクションの硬直時間が長めでレスポンスも悪く、ちょっとした段差で勝手に飛び跳ねてしまうなど、操作感があまりよろしくない。戦闘時のカメラワークにも難があったりと、基礎からして怪しい部分があり、決して手放しで褒められる出来栄えではない。しかし、好機を見極めて一気呵成に攻め立てる感覚は爽快で、機を逸した直後の絶望感などは独特なものでもあり、駄作と切り捨てるには惜しい戦闘である。

貧弱なキャラ強化要素と退屈な探索は本作の明確な欠点

何とも評価に困る戦闘要素であるが、同ジャンルの根幹を成すべきもうひとつの要素「キャラ強化」については明確な欠点となってしまっている。まず本作には主な成長要素として「スキルツリー」システムが導入されているのだが、その大半が生命力や攻撃力などの各パラメータを多少強化したり、特定の攻撃や術をいくらか強化するといった内容に留まっている。

「クールダウンタイムの軽減」や「術の効果時間の延長」など有用ではあるのだが、新たな術を習得するようなスキルはなく、各術の使用感が一変するようなスキルもない。
「クールダウンタイムの軽減」や「術の効果時間の延長」など有用ではあるのだが、新たな術を習得するようなスキルはなく、各術の使用感が一変するようなスキルもない。

スキルツリーによってもたらされる唯一の大きな変化と言えそうで、そうとも言い切れないのが、「スタイル」の選択である。本作には「劈」、「立」、「刺」という3つの攻撃スタイルが存在しているのだが、スタイルという割に通常攻撃や回避などの基本モーションについてはまったく変化がなく、重棍のモーションが変化するのみとなっている。その重棍の性能についてはいくらかの差別化は図られているが、スタイルを選んだところで棍勢を溜め、折を見て重棍を叩き込むという流れに変わりはない。戦闘の幅の少なさを補えるほどのスキルツリーではなく、この点については残念としか言いようがない。

スキルについては各チェックポイントにて、いつでも無償で無制限に振り直しが可能という点については評価したい。
スキルについては各チェックポイントにて、いつでも無償で無制限に振り直しが可能という点については評価したい。
最高クラスのグラフィックと独特なセンスが相まって、流れはわからなくとも映像として楽しめる場面は多い。

また、筆者のPCでは何の問題も発生しなかったが、公式FAQによると特定の環境下においてゲームがクラッシュするなどといった深刻な問題まで抱えていることもあり、少なくとも現時点では手放しでおすすめできる作品ではない。それと同時にボス敵との邂逅の瞬間など強烈な印象を残す作品でもあり、傑作になり得るポテンシャルを秘めていることは間違いなく、『黒神話:悟空』と開発のGame Scienceの今後の動向に注目したくなる一作であった。

長所

  • 質、量ともにほかに類を見ないほど作りこまれたボス戦
  • 圧倒的なグラフィックと独自のセンスが光るレベルデザイン
  • 少ない機会にすべてをかけるという戦闘のコンセプト

短所

  • 基本的に棍で殴るだけという戦闘スタイルのバリエーション不足
  • 突っかかるような操作感と拙いカメラワーク
  • 『西遊記』を読み込んでいることが前提となる難解なストーリー

総評

戦闘については目玉となるシステムがなく、戦闘手法のバリエーションにも乏しく、それでいて操作感もあまりよろしくない。しかしながら「隙をつくのではなく、隙を作り出す」、「少ない機会にすべてをかける」という戦闘のコンセプトはよいものであり、量と質を両立したボス敵たちのおかげもあって、システム面の不足をギリギリ補えるくらいには魅力ある戦闘となっている。反面、キャラ強化と探索についてはあまりにも薄味であり、『西遊記』未読者には理解が困難なストーリーなどの隠しようのない欠点も存在している。しかし、一瞬一瞬が絵になるほどの圧倒的なグラフィックと独特なデザインセンスによって描き出される『西遊記』のその後の世界には、一見の価値があるだろう。